スタートアップのカリスマ孫泰蔵氏に聞く(1)

僕がミスルトウを立ち上げたワケ

──ミスルトウの活動は一般的なベンチャーキャピタル(VC)とどんな点が違うのでしょうか。

既存の、いわゆるベンチャー支援をやっている人たちというとVC、インキュベーター(起業家支援の事業者)、シードアクセラレーターといった存在がある。それぞれ、スタートアップのために場所を貸し出したり、立ち上げ初期段階でのさまざまなサポートをしたりする。

VCは人のおカネを預かって運用しているという性質上、どうしてもきちんとリターンが見込める企業にしか投資できない。その点、ミスルトウは僕個人がおカネを出して運営しているので、もっと手前の、海のものとも山のものともつかない技術やアイデアの段階から一緒になって研究開発を行うことができる。

ごく初期の段階で起業をサポートするような組織も、確かに増えてはいる。シードアクセラレーターと呼ばれるところでは、Y Combinator(ワイ・コンビネータ)、500 Startups(ファイブハンドレッド・ スタートアップス)、Techstars(テックスターズ)などが米国にあり、日本でもOpen Network Lab(オープン・ネットワーク・ラボ)や、最近はNTTドコモ、KDDI、JR、銀行などの大企業も乗り出している。

はやりともいえる状況になってきているが、彼らが主に取り組むのは、3カ月間とか6カ月間とか、プログラム形式のもの。一定期間内に集中的にプロトタイピングを応援して、次の投資家やVCにうまくつないでいくという範囲にとどまるケースが目立つ。

一方で、私たち自身がこの会社をどう形容しているかというと、「Collective Impact Studio」。個別に企業支援をするのに加えて、それぞれの強みや技術をテーマごとにつないで、より大きなインパクトを作っていくところまでやりたいと思っている。僕たちはそれを「オーケストレーション」と呼んでいる。一人ひとり、すばらしい楽器の演奏家を束ねてハーモニーに仕上げる、交響楽団の指揮者だ。

たとえばインドの食糧問題を根本から解決するには、農業生産性を高める技術や、生産者から飲食店への流通を支援する技術、消費者へのフードデリバリーを効率化する技術も必要になる。スタートアップはものすごくエネルギーを使うので、大抵は特定の技術を世に出せるまで磨いて、製品化するので精いっぱい。でもそれだけでは世の中の課題解決はできなくて、サプライチェーン全体を思考しなければならない。その役割をわれわれが担っていく。

実際に成果を出せるまでは、ケースにもよるだろうが、5年、10年がかりの仕事になると思っている。逆に2~3年でできるようなことであれば、取り組める主体がわれわれ以外にもたくさんいるだろう。でも世界をよくしていくためには、長期的に粛々と取り組んでいかなければならない。

(聞き手:長瀧菜摘)

(インタビュー第2回は明日3/23公開)

[孫 泰蔵 プロフィール]
そん・たいぞう / 日本の連続起業家。孫正義・ソフトバンクグループ社長の実弟。東京大学在学中の1996年、ヤフー・ジャパンの立ち上げに参画し、コンテンツ制作、サービス運営をサポートするインディゴを設立、代表取締役に就任。98年 ガンホー・オンライン・エンターテイメントの前身となるオンセールの設立に参画、代表取締役に就任。スマートフォンゲーム『パズル&ドラゴンズ』を大ヒットに導いた。
起業家支援も長く手掛けている。2009年 スタートアップアクセラレーターのMOVIDA JAPANを設立、代表取締役CEO(最高経営責任者)に就任。そして13年には、ミスルトウ(Mistletoe)を設立し、起業家の育成、ベンチャー企業への投資、スタートアップエコシステムの形成・発展に向けた活動を開始している。
足元では、カルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC、増田宗昭社長)とミスルトウの合弁で、教育事業にも乗り出している。CCCが3月2日に開業した商業施設「柏の葉T-SITE」に、「T-KIDSシェアスクール」をオープン。「“自らの学ぶ力”を育てるためのプラットフォーム」を標榜する同事業では、従来型の塾や一般的な習い事とは違う、STEMと呼ばれるテクノロジー、探究・理数、英語・外国語、文化・芸術、フィジカル、Baby & Toddler(乳児&ママ、幼児のクラス)といった多様なクラスを展開する。
(撮影:大澤 誠)
プラス会員(有料)にお申し込みいただくと
下記のサービスがご利用いただけます。
  • 『週刊東洋経済』のすべての記事がWebで読み放題
  • 『週刊東洋経済』が毎号届く
  • 『会社四季報 業界地図』のコンテンツが閲覧できる

    ※一部のコンテンツは無料会員記事でも閲覧が可能です。

  • 東洋経済主催セミナー無料ご招待
プラスの視点 アクセスランキング バックナンバー一覧 TOP