ちょうど100年前(大正5年)の御幸毛織の旧・西志賀工場の風景

「ガッチャンコ、ガッチャンコ、ガッチャンコ……」。尾張つまり尾州にある愛知県一宮市木曽川町の葛利毛織工業では、古めかしいションヘル式の織布機械がにぎやかにリズムを奏でている。

独ションヘル社が約1世紀前に開発した、大きな木製の杼(ひ)(シャトル)で糸巻きごと横糸を運ぶ方式の織布機械は「往年の名機」とされる。同様な機械は日本企業により国産化されたが、それも生産終了から約半世紀経ち、国内では尾州に数十台残るのみとも。とうに交換用部品も供給打ち切りで、手ずから保守する必要があるため、一台一台のクセである機差は大きくなるばかり。準備作業と操作と保守に熟練と根気が必要な、希少だが厄介な機械だ。

ゆっくりと織ることが、風合いをもたらす

そのションヘル式の織布機械が1912年創業の葛利毛織工業にはまだ8台も残っている。「糸に大きな張力をかけず、ゆっくりきちんと織れるため、羊毛本来のふっくらとして柔らかな風合いを長年保てる織物ができるから」と、葛谷幸男社長はションヘル機を愛用してきた。ゆっくり織ることが優れた風合いをもたらすため、空気噴流(エアジェット)式や水噴流(ウォータージェット)式という高速機と比べ織布の所要時間は約5倍かかる。おかげで世界最高品質のスーツ服地の注文へは、場合により「3年待ちをお願いすることになる」(葛谷社長)という。

プラスの視点 アクセスランキング バックナンバー一覧 TOP