週刊東洋経済 2017年6/10号 [雑誌](医学部&医者 バブル人気の行方)(東洋経済新報社)書影をクリックするとAmazonのサイトにジャンプします。

医学部の人気が沸騰している。今年の医学部志願者数は14万3176人(国公立、私立大学合計)と10年前より4割近く増えた。大学の定員数に対する志願倍率は実に15.2倍。2年連続で医学部の新設があったことから、ここ数年は横ばい傾向だが、それでも超高水準が続く。

併願できる私立大学医学部の一般入試では、20〜30倍の倍率は当たり前。人気上昇につれて、私立医大の平均偏差値は1990年と比べ約10上昇した(駿台予備学校の資料を基に計算)。いちばん偏差値が低い大学は60前後だが、それでも「母集団のレベルが高く早慶の理工学部並み」(予備校関係者)。

私立医大が学費値下げ一般家庭にもチャンス

こうした医学部のバブル人気の背景には何があるのか。河合塾麹町校の横井徹・校舎長は、「リーマンショック後、手に職をつけたいという一般家庭の生徒たちが流入している」と話す。医者はなんといっても高年収。開業医になればいちばん高い眼科で平均3273万円を稼ぐ。サラリーマンと違って定年はなく、安定して稼げる資格職の代表格になっている。

6年間の総学費が約350万円と安い国立大学の医学部は、科目数の多いセンター試験で85〜90%以上の点数を取らないと合格できない超難関。得意な科目に集中して対策ができる私立大学の医学部を滑り止めに狙おうにも、6年間の学費は最高4550万円と都心のマンション価格並み。一般家庭にはなかなか手が出せなかった。

それが、順天堂大学が2008年度に値下げしたのを皮切りに、私立医大で学費の値下げが相次いでいる。私立医大の人気と偏差値は学費と反比例する。入学志願者の獲得へ、この10年間で1000万円以上学費を下げる大学も出てきており、一般家庭の子どもの志願者が増えているのだ。

また、「新設医大世代の子どもが医学部受験に向かっている影響もある」と、駿台予備学校市谷校舎の竹内昇・校舎長は指摘する。70年代、当時の田中角栄政権が「1県1医大構想」で新設医大を量産してから40年が経過。新設医大卒の開業医らが、事業承継のために子どもたちを医学部受験に駆り立てている。

医大生の留年が増加、33年には医師過剰に

医者の家系から一般家庭まで、生徒と親が医学部受験に熱を上げる一方、脱落者も増えている。入試問題はますます難しくなり、コミュニケーションに難があると判断された学生は面接試験でふるい落とされる。「受験うつの診察に来る医学部志望生は増えている」(本郷赤門前クリニックの吉田たかよし院長)。

大学関係者も「今の人気は異常」と困惑ぎみだ。大学は、「医者になる」というキャリア意識を欠いたまま入学してくる学生が増えて、近年は留年率の上昇に悩まされる。医学部は6年制だが、国家資格を取得するまでに10年かかるような学生も珍しくない。

今年、入学した医大生が後期研修を終えて、医師として独り立ちするのは約10年後。厚生労働省の試算によれば、需要予測を多く見積もった推計でも2033年ごろに医師の需要と供給は均衡。40年には医師の供給が需要を1.8万人程度上回るとされる。

将来的に医者は仕事にあぶれかねない。AI(人工知能)が医療現場に押し寄せ、「内科医や外科医の多くが淘汰される」(ニューハート・ワタナベ国際病院の渡邊剛総長)との声もある。

はたして医者の地位は安泰なのか。バブル人気の実情を総点検し、医者の仕事の行方を占う。

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病院

医療費抑制により多くの病院が赤字経営

日本の病院数は1990年をピークに漸減が続いている。背景には医療費抑制政策がある。中小を中心に病院経営は厳しい状況が続き、全国公私病院連盟・日本病院会の15年調査では、回答のあった643病院のうち7割が赤字。自治体病院では実に9割が赤字だった。16年度診療報酬改定では医師の技術料など本体がプラス改定されたが、病院は経営形態見直しなど変化の波にさらされている。