週刊東洋経済 2017年6/24号 [雑誌](アマゾン膨張)(東洋経済新報社)書影をクリックするとAmazonのサイトにジャンプします。
 

巨人果てしなき拡大

日本上陸から17年目。アマゾンの膨張が止まらない。2016年12月期、日本での売上高は約1.2兆円に達し、年2割ペースの増収を続けている。年1割前後で伸びている日本のeコマース市場を上回る驚異的な速度で成長し、今や同業を寄せ付けない圧倒的強さを誇る。

成長につれ、会社の規模も大きく拡大している。アマゾン ジャパンの社員は4400人(16年末)と1年間で900人増えた。ジャスパー・チャン社長は「われわれの注力領域は(物販の)eコマース、デジタルコンテンツ、クラウドサービスの三つ。まだまだ人が足りない。リーダーとなれる人を求めている」と語る(→関連記事へ)。

社員の待遇は破格だ。あるアマゾン関係者は「部長職で年収1800万~2600万円もらえる。30歳代後半から40歳代後半の人が対象で、かなり高い水準だ」と話す。求人への応募も殺到しているようで「ソニーやP&Gからの転職者が多い。戦略立案の部隊には外資系コンサルティング会社の出身者が多数いる」(別のアマゾン関係者)といわれる。

膨張ぶりを最も示すのは物流拠点の拡大だろう。16年末時点で、全国8都府県・18カ所の物流センターが稼働している。また、15年11月から最短1時間で商品が届く「プライム・ナウ」を始めており、5カ所がプライム・ナウ専用の拠点だ。

アマゾンは明らかにしていないが、大阪府藤井寺市、東京都八王子市にも新拠点の開設を予定しており、契約社員とパートスタッフの募集が行われている。増え続けるモノを取り扱うには、まだまだキャパシティが足りない状況のようだ。

物流拠点は全国18カ所まで増えたが、まだまだキャパシティが足りない(写真は佐賀県鳥栖市の物流センター)
 

ヤマトvs.アマゾン 値上げ交渉の行方

一方、さまざまな日本企業がアマゾンの膨張ぶりを受け止め切れずにいる。象徴的なのがヤマト運輸だ。同社は今年9月末までに大口顧客1000社に対し、平均15%以上の値上げを要請する方針を打ち出した。背景にはeコマースの需要拡大で、予想以上の荷物量に現場が追いつけない事情がある。すでに採算悪化で17年3月期の営業利益は前期比半減している。

大口顧客の中でも最大はアマゾンだ。ヤマトが年間で取り扱う約18.7億個のうち、アマゾンのものは2割弱、約3億個とみられる。アマゾンとの価格交渉は、ヤマトにとって宅配事業の命運を決する戦いといっても過言ではない(→関連記事へ)。

ネットを含むほかの通販企業にとっても、アマゾンとの価格交渉は注目の的となっている。ヤマトによる値上げ要請を受けて、すでにニッセンは配送料を値上げした。アスクルの「ロハコ」は当日配送の一部休止、スタートトゥデイの「ゾゾタウン」は当日配送のすべてをとりやめた。当事者であるアスクルの岩田彰一郞社長は「今後の交渉過程において、アマゾンの運賃だけが優遇されることは許されない。ヤマトにはほかの通販企業が共存できるよう適切な判断をしてほしい」と訴える。

通販企業向けにコンサルティングを行うスクロール360の高山隆司取締役は「今回の値上げ交渉を機に、通販企業にとって(配送料を抑えられる)コンビニ受け取りや宅配ポストの活用が重要になってくる」と指摘する。

揺れているのは出版業界も同じだ。もともと本の販売から出発したアマゾンは、出版社との関係を深めて品ぞろえを増やし、書籍部門の年間売上高は約1500億円あるといわれる。紀伊国屋書店やTSUTAYAを上回り、今や日本最大の“書店”だ。

この「アマゾン書店」が思い切った策に出た。

今年6月末で出版業界の卸(取次)最大手・日本出版販売(日販)との一部取引を打ち切ることを決めたのだ。アマゾンはサイト上の売り逃しを防ぐため、従来出版社に対し取次を介さない直取引を提案していた。今回アマゾンは、欠品の在庫補充に当たる「バックオーダー発注」について日販からの納品があまりに遅いと判断。4月末に取引関係のある出版社へ、日販向けのバックオーダー発注を中止すると通告した(→関連記事へ)。

取引を打ち切られた日販の大河内充常務は「アマゾンとの交渉の余地はなかった。あまりに一方的なやり方だ」と憤る。別の取次関係者も「アマゾンはドライ。いつウチが切られてもおかしくない」と漏らす。

アマゾンの書籍事業をめぐっては、昨年後半、電子書籍の読み放題サービスで配信作品がいきなり削除された。出版社最大手の講談社は協議中に再度作品が削除されたことから、「アマゾン社の配信の一方的な停止に対して強く抗議する」との文書を発表。現在も同サービスへの作品提供を再開していない。

本来コンテンツを供給するパートナーであるはずの出版社をも振り回すところを見ると、アマゾンの社内体制が急拡大に追いついていないともいえる。

ドンキが危機感あらわ。セブン、イオンは迷走

アマゾンのeコマースにおける膨張は、自社による仕入れ販売のみならず、出品者を募るマーケットプレイス事業でも進んでいる。品ぞろえは全体で2億種類以上にも及んでいる。

アマゾンのマーケットプレイス上で昨年最優秀賞を受賞したアンカー・ジャパンの猿渡歩マーケティング&セールス・シニアマネージャーは「商品を軸に探すプラットフォームとしてアマゾンは洗練されている。楽天、ヤフーにも出店しているが、アマゾン上の売り上げが圧倒的だ」と語る。

これに対し、既存の小売店もアマゾンの動きに警戒心を高めている。「アマゾンがかつてのコンビニのように、消費革命を起こそうとしていることは誰の目にも明らか。リアル店舗を主体とする小売店も、ネットの中に存在していかなければいけない」。ドンキホーテホールディングスの大原孝治社長はそんな危機感を示している。ただ、日本における流通2強のセブン&アイ・ホールディングスとイオンは頼りない。アマゾンに対抗すべく講じたさまざまなネット戦略が、どれも空振りに終わっている(→関連記事へ)。

アマゾンは米国で実店舗の展開に乗り出しており、ネットだけでなくリアルの消費ものみ込もうとしている。いずれその波が日本企業を襲っても不思議ではない。

破格の「プライム」に値上げはあるのか

アマゾンがここまで強い最大の理由は使い放題サービス「アマゾン・プライム」にある。日本で07年(米国では05年)から始まり、徐々に特典を充実させてきた。現在の展開エリアは中国やインドも加わり世界13カ国。米国のプライム会員は17年3月時点で8000万人、日本では800万人と推定される。

日本のプライム会員の年会費は税込み3900円で開始当初から変わらない。1年間で当日お急ぎ便(1回当たり税込み514円)を8回使えば元が取れてしまう。プライム・ナウや生鮮品宅配の「アマゾン・フレッシュ」などプライム会員のみを対象にした有料サービスも一部あるが、それ以外は映画や音楽などのサービスが使い放題というお得ぶりだ。

プライムに対する日本法人のコストのかけ方は半端ではない。たとえば電子書籍端末「キンドル」とタブレット端末「ファイア」。15年半ばからプライム会員向けに1台4000円の割引を適用しているが、「ここまで割り引いているのは日本だけ。1回の端末購入でプライム年会費の元が取れる」(アマゾンデバイスマーケティング本部本部長の橘宏至氏)。6月8日からは税込み月額400円の新プランも始まった。年会費よりも若干割高だが、これも当日お急ぎ便を1回使えば元が取れる。

同じサービスは米国では年間99ドル、英国では同79ポンドなどで提供されており、日本の安さはとりわけ目を引く。だが、日本におけるプライム統括事業本部長のカセ川謙氏は「今のところ価格を変える予定はない。他国との比較はせず、日本の顧客を見ている」と自信を示す。本誌の取材に応じた世界のプライム事業を統括する副社長のグレッグ・グリーリー氏は「『プライム会員にならないことはありえない』という状況を目指している」と話す(→関連記事へ)。

ただ、日本における配送特典は、ヤマトが業界で最低水準といわれる運賃で続けてきたから実現していたともいえるだろう。「ヤマトの値上げ幅次第で、(今はプライム会員がすべて無料で使える)当日・翌日配送や日時指定は、追加料金を消費者が払わざるをえなくなるのではないか」(通販関係者)と見る向きもある。

物流に限らずとも急成長を続ける日本法人は、取引先との摩擦のリスクが生じやすくなっている。ある小売企業の幹部は「アマゾンの担当者は顔が見えないといわれる。メーカーなどと長期的な関係を築けるとは思えない」と話す。

自らの膨張をどうコントロールするのか。巨人・アマゾンが向き合わなければならない課題である。

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