外務官僚時代、筆者も起案者名や秘密指定をあえて書かない(内容的には極秘に相当する)「闇文書」を、担当官メモという形で数百通作成したことがある。それは万一、流出したら深刻な事態になることが想定される内容の文書だ。北方領土交渉に関する機微に触れる情報、外国インテリジェンス機関が非合法な手段で入手した某国政府内部の情報、他省庁の動静に関する調査報告書、政治家から不当な要請がなされた場合などだ。

特に政治家に関連する文書については、外務省の幹部には、それぞれ庇護者となる政治家がおり、それだから、この種の文書が政治家に流れる可能性がある。文書の内容によっては、露見すると首相官邸や有力政治家から「なんでこんな話を記録に残したんだ。内々に処理すればいいじゃないか」と圧力がかけられる場合がある。そのときに備えて、日付だけを書いて、主管課名も起案者名も書かないことがある。

このようにして「詠み人知らず」の「怪文書型公文書」ができる。仮にこのような文書が表に出ることになっても、「出所不明の文書で確認不能」という話で、文書に登場する政治家も文書を作成した官庁も逃げることができる。外務官僚時代、このようなスタイルで仕事をしていることに筆者は疑問を感じなかった。しかし、今では大きな間違いで、やるべきではなかったと反省している。なぜなら、外務省が持つ情報は、原則としてすべて主権者である国民のものであるからだ。

官僚はこの情報を誠実に管理することを国民から委託されている。ところがどの省庁もこの種の「闇文書」を作成している。文部科学省が、加計学園の獣医学部設置に関して、「これは官邸の最高レベルが言っていること」と記された文書を「闇文書」としたのは、この要請が不当だという認識があったからだ。

さて6月15日、文科省はそれまで「存在が確認できない」としていた加計文書について、実は存在していたと、立場を百八十度転換した。〈「確認できない」との強弁から一転、存在を認めた。加計学園の獣医学部新設計画で文部科学省は15日、「総理のご意向」などと記された一連の文書を発見したとして陳謝した。だが菅義偉官房長官は「怪文書」との認識を撤回しないままだ。/「前回確認できなかった文書の存在が確認できたことは大変申し訳なく、結果を真摯に受け止めている」/15日午後、文部科学省。松野博一文科相は記者会見の冒頭、調査のやり直しで文書が見つかったことを陳謝した。/再調査で存在が確認された14通の文書は、5月の調査で調べたものとは別の共有フォルダーや、野党から再三求められても調査しなかった職員の個人フォルダー内から見つかった。/文科省の説明では、5月の調査で調べたのは、専門教育課の共有フォルダーのうち、「国家戦略特区」というフォルダーだけだった。ところが「獣医学教育」という共有フォルダーを調べたところ、「官邸の最高レベルが言っている」や「総理のご意向」と記された3通の文書が見つかった。松野氏は最初の調査の甘さを指摘されると「その時点では合理的だった」と述べた。/内閣府から文科省に対し、「総理のご意向」「官邸の最高レベル」といった発言はあったのか。担当の課長補佐は文科省の再調査に対し、「そういった発言があったのだろうと思う」と認めたといい、松野氏も「内閣府の職員からその種の発言があったと我が省の職員が考えているということ」と述べた。〉(6月15日「朝日新聞デジタル」)

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