週刊東洋経済 2017年8/12・19合併号
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東京の都心から30km圏内にある千葉県柏市の柏ビレジは、東急不動産が1980年に分譲を始めたニュータウンだ。総戸数1600戸、1区画の敷地面積が平均200平方メートルと広く、当初の平均分譲価格は4600万円だった。

購入したのは、都心の大手企業に通う会社員など比較的所得の高い人たちだ。バブルの頃には1億円クラスの物件もあり、「住むことがステータスになる高級住宅地だった」と地元の不動産業者は言う。

しかし、現在売りに出されている中古物件の価格は1500万~2000万円ほどと、大幅に下落している。今年3月に発表された住宅地の公示地価では、首都圏の価格が底入れの機運にある中、この街の一画は前年比マイナス8.5%と全国最大の下げ幅となった。

東急不動産が1980年代に分譲を始めた千葉県柏市の柏ビレジ

現地を歩いてみると、青々と葉を茂らせた街路樹に沿って2階建ての戸建て住宅が整然と並んでいる。れんがの塀で統一された街並みは、建築家の宮脇檀(まゆみ)が設計にかかわったとあって、落ち着きのあるたたずまいだ。

敷地も道路もゆったりとしている。豊かな緑に大きな公園、気軽に使えるテニスコートもあり、成熟した郊外住宅地の趣を感じさせる。公園には走り回って遊ぶ子どもたちの歓声が響いていた。毎年恒例の夏祭りもあるそうだ。

住民の2割が団塊世代 空き家も50戸を超す

ただ、30年前に40代で購入した人たちは、現在70代を迎えている。約4000人の住民のうち2割ほどが団塊の世代だ。成長した子どもたちが外に出ていって街の高齢化が進み、空き家が五十数戸ある。

分譲された80年代、90年代は庭付き戸建てへの志向が強い時代だった。

都市銀行に勤めていた70歳の男性は、30年前に約4000万円で戸建てを購入し、千葉の社宅から移り住んだ。東京・丸の内までの通勤は片道1時間半。朝6時に家を出て、夜10時に帰宅する毎日だったが、緑の多さと鳥の声で目を覚ます暮らしが気に入っていた。

子どもたちはやがて独立し、夫婦二人には広すぎる家になった。2階は半分物置になりつつある。

「生活環境がいいので、今後もずっと住み続けたい」

と話す。だが、加齢とともに問題になってくるのが買い物や通院の利便性だ。やはり30年前に入居した69歳の女性は、

「ひどいですよ。年を取っても大丈夫だと思って越してきたのに」

と訴える。タウン内にあった東急ストアは閉店し、銀行は窓口業務をやめてATM(現金自動出入機)だけになった。今は週2回の移動販売を利用し、牛乳はコンビニで買う。自転車で行くスーパーは1km以上も先だ。

戸建てを売却しても二束三文にしかならない

夫は75歳になったのを機に車の運転免許証を返納し、今はタクシーで病院に通っている。近所には、便利な駅前のマンションを買って転居してしまった人もいるが、

「そんなおカネはないですよ。価格が下がったから、ここにいるしかないんじゃない?」

25年前に約7000万円で戸建てを購入したという70歳の男性もこう語る。

「今売ったら二束三文。せいぜい2000万円台でしょう。マンションに移りたくても先立つものがない」

庭に雑草が茂り、空き家と思われる家屋や、空き地もある(柏ビレジ)

子育てにはよいが高齢者には不便

人生設計が狂った住民も少なくないようだ。郊外の戸建ては子育てをするにはいいが、高齢者には不便な点も多い。都心に出るには時間がかかり、自宅の屋根や外壁の修繕もしなければならない。敷地が広い分、庭の草取りは年々きつくなる。

防犯の面でも、鍵一つで出掛けられるマンションのほうが気楽だ。しかし不動産業者によると、柏ビレジの最寄り駅の一つ、つくばエクスプレス柏の葉キャンパス駅前のマンションの相場は、4000万~6000万円だという。家を売っても手が届かない。

価格下落要因の一つは駅からの遠さだ。最も近い、つくばエクスプレス柏たなか駅までは約2kmあるが、バス便はない。柏の葉キャンパス駅、JR常磐線の北柏駅・柏駅までは、それぞれ1時間に1~3本のバスが走っている。

「今の若い人は狭くても庭がなくても駅の近くを好む」

と、別の不動産業者は話す。確かに共働きで子育て中の夫婦がここから都心に通勤するのは無理がある。保育園に子どもを預けられたとしても、夕方のお迎えの時間に間に合わない。待機児童になってしまっては、働き続けることすらできなくなってしまう。

専業主婦が多かった時代は、父親が通勤ラッシュを我慢すれば、家族は郊外の広々とした家に住めた。だが今はライフスタイルが大きく変化している。

とはいえ、現状では売り出された中古物件に引っ越してくる子育て世代もまだいる。環境のよさに加え、広さと安さが魅力になっているからだ。職場が県内にあるなど都心に通勤する必要がなく、主に車で移動する人なら、この立地でもあまり問題はない。

また、しっかりした自治会組織があり、季節の行事や交通の便の改善などの課題にも積極的に取り組んでいる。

坂道だらけの横浜郊外 若者誘致は成功するか

横浜市泉区の相模鉄道いずみ野線弥生台駅の周辺に広がる住宅地でも高齢化は進行している。いずみ野線が開業した76年ごろから相鉄不動産、三井不動産などによる開発が進んだ。泉区は65歳以上の高齢者が人口の27.7%を占め、その割合は横浜市で4番目に高い。

横浜市泉区の相鉄弥生台駅近くの住宅地。1970年代から相鉄不動産などが開発

200平方メートルほどの大きな敷地に瀟洒(しょうしゃ)な家が並び、道幅も広い。

長い坂道を上ってきた69歳の女性は、週2回、カートを引いてスーパーに通うという。起伏の多い丘陵地は景観が魅力の一つである一方、高齢者にとって買い物に出るのも一苦労だ。

町内会の役員の順番がすぐに回ってくる

28年前、「娘を社宅から嫁に出すわけにはいかない」と戸建てを購入した。近隣住民の年齢も上がり、町内会では半数の人が高齢を理由に役員を辞退するので、自分の番がかつての倍のスピードで回ってくる。

「足腰が立たなくなったら弥生台駅前のマンションにと思っていたけど、リフォームでおカネを使い果たしたから、このまま住むことになりそう」

と話す。やはり28年前、60坪の戸建てを約1億円で購入した81歳の男性はこう語る。

「静かで緑が多いから、ずっとここに住みたい。ただうちは道から玄関まで10段の階段がある。若いときは考えなかったけど、今は一段一段がこたえるね」

住民の79歳の男性は、

「郊外の戸建ては子どもと思い出を作るにはいいけど、子育て後に住む所ではない。妻も庭いじりが手に負えなくなってきた」

こうした課題への取り組みとして横浜市と相鉄ホールディングスは、郊外住宅地において高齢者と若年層の住み替え循環を促すプロジェクトを進めてきた。

相鉄いずみ野線南万騎が原(みなみまきがはら)駅前では、先月、サービス付き高齢者向け住宅の入居が始まった(関連記事『地域とつながるサ高住』)。すでに賃貸マンション、保育園、商業施設などが近隣に整備され、来年には分譲マンションが竣工する予定だ。さまざまな居住形態に合わせたタイプをそろえており、地域外から若年層を呼び込もうとしている。

上の写真と同じ住宅街。高齢者には坂道がきつくなる

2033年には3割強が空き家に

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