週刊東洋経済 2017年8/26号
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会計、英語に続くビジネス知識

テック音痴は必ず淘汰される

18世紀から19世紀にかけて起こった産業革命は経済と社会を大きく変えた。第1次産業革命は18世紀末に起こり、蒸気機関や水力を動力源とする「機械化」によって特徴づけられる。第2次は19世紀後半からで、電力を使って「大量生産」が可能になった。そして20世紀半ばには第3次ともいえる動きがあった。コンピュータとソフトウエアというデジタルテクノロジー(テック)による「自動化」だ。

さらに今、4度目の産業革命が始まろうとしている。牽引役となるのは、AI(人工知能)だ。AIは第3次で芽生えた、人間の知的労働を機械が代替するという流れを加速させるとみられている。

AIのエラー率は人間より低い

下図は、AIの画像認識精度を競う国際コンペティション・ILSVRCの結果の推移だ。画像認識のエラー率が低いほど賢いAIといえる。このエラー率が2012年、劇的に下がった。カナダ・トロント大学のチームが、ディープラーニング(深層学習)と呼ばれるAI技術を導入し、驚異的なスコアを挙げた。

(出所)ILSVRCとプリファードネットワークスの資料を基に本誌作成

翌年以降は、参加チームの多くがディープラーニングを導入。15年にはマイクロソフト・リサーチ・アジアが3.57%を記録し、初めて人間のエラー率を下回った。単純な画像認識においてはAIはもはや人間より賢いのだ。

このAIを、あらゆる工業製品に半導体やセンサーを搭載し通信網でつなげるIoT(モノのインターネット)技術と組み合わせれば、大きなイノベーションが起きるとみられている。典型例が車の自動運転だ。センサーで周囲の環境を読み取り、車載やクラウド上のAIがそれを分析するようになれば、人が判断し操作をしなくてもよい。

だからここ数年世界では、AIやIoTに関するベンチャー企業に投資マネーが押し寄せている。もちろん日本でもだ。昨年の国内ベンチャー企業の資金調達額は前年比2割以上増の2099億円。06年以降で最高の額となった(出所・ジャパンベンチャーリサーチ)。AI、IoT、ロボティクス、フィンテック関連の企業への投資が盛んだ。

投資家はこうしたベンチャーが、数年後に利益をもたらすことを期待している。だが新しい技術が、経済や社会に対しどのような影響をもたらしたかがわかるまでには時間を要する。

米国の経済学者、ノースウエスタン大学のロバート・ゴードン教授は近著『ザ・ライズ・アンド・フォール・オブ・アメリカングロウス』で、1870年からの約150年における技術革新と米国の経済成長の関係を分析した。

最初の50年(〜1920年)は第2次産業革命が米国で始まった時期で、米国の1人当たり実質GDP成長率は1.84%だった。それが次の50年(〜70年)には2.41%に上昇する。ゴードン教授は、第2次革命の効果が前の50年という「懐妊期間」を経て、ようやく発現したからだと分析している。たとえばエジソンが発電所を最初に建てたのは1882年だったが、電力を消費する工場の建設ラッシュは1920年代に入ってからだ。

第3次革命と重複する最後の約50年(〜2014年)の成長率は、1.77%に後退した。ゴードン教授はこれを米国の経済成長が終わりを迎えている証しと見ている。だがその前の100年を踏まえれば、第3次革命の経済効果は、第4次革命と融合しながら次の50年で発現するというシナリオもあるのではないか。

感度が鈍い日本 まずは知ることから

一方、個々の働く人にとって気になるのは、産業革命が自分にどう影響するかだろう。米国のオバマ前政権は、AIが社会に及ぼす影響を分析。昨年12月のリポートは、AIと機械化が進めば今後20年で米国の仕事の最大47%を何らかの形で脅かす、と予想している。

こうした研究例でわかるように、米国はITに代表される新しい技術に対する感度が高い。気掛かりなのは日本の感度が鈍いことだ。いわばテック音痴である。

下図は、民間部門におけるコンピュータやソフト、通信設備など情報通信資本ストックの伸びを日米で比較したもの。米国は90年代半ば以降、IT投資を一貫して続けてきた。日本も増やしてはきたが、米国の積み上げ方には遠く及ばない。この差は90年代以降の日米の生産性の差に直結しており、企業のテック感度の差もうかがわせる。

(出所)総務省「平成27年度ICTの経済分析に関する調査」

デジタルテックの難しさは、変化が指数関数的で、急激に加速することだ。これまでの延長線上で変化が継続するという線形(リニア)な変化は理解しやすい。だが一気に局面が変わるタイプの変化への対応を誤ると、過去の栄華は一瞬にして崩壊する。

典型例は、「半導体の集積度は24カ月で2倍になる」というムーアの法則だ。半導体最大手、米インテルの共同創業者ゴードン・ムーアが提唱した。正確には法則というより直感や洞察に基づく予言のようなもの。インテルはこれに近い形で大規模な設備投資を継続し、企業収益を急拡大させ、この法則が現実に成立することを明らかにした。一方、かつて半導体産業に君臨した日本メーカーは、短期的な業績を基準に設備投資を絞り、今や見る影もない。

新しい技術の誕生に際しては、「それはいったい何なのか」「今後どのような影響を及ぼすのか」を見極め、合理的な戦略を選ぶしかない。その眼力のない人は、必ず競争力を失う。この特集では、コンピュータとインターネットを中心とするテックの動向と、底流にある原理を伝える。

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人工知能

沸騰するAIマネー、市場はまだ黎明期

米国の巨大IT企業がAI投資を加速し、画像認識に強いベンチャーなどを買いあさっている。昨今のAIブームに火を付けたのは、「ディープラーニング」と呼ばれる解析手法だ。人間がルールを定めなくとも、コンピュータがビッグデータを基に自ら判断基準を見つける。国内では自動運転やフィンテックが先行しているが、活用の場は今後さまざまな業界に広がるだろう。市場はまだ黎明期だ。