【今週の眼】早川英男 富士通総研エグゼクティブ・フェロー
はやかわ・ひでお●1954年生まれ、愛知県出身。東京大学経済学部卒。米プリンストン大学経済学大学院にて修士号取得。77年日本銀行に入行後、長年にわたって主に経済調査に携わる。調査統計局長、名古屋支店長、理事などを歴任し、2013年4月から現職。著書に『金融政策の「誤解」』。(撮影:梅谷秀司)

筆者はこれまでも「長期停滞論」をめぐって何回か発言してきた。そこで常々思うのは、成長率の趨勢的低下と自然利子率の低下を混同しないほうがよいということだ。

まず世界的に潜在成長率が低下しているかどうかは、まだ決着がついていない。米ノースウェスタン大学のロバート・ゴードン教授に代表される技術進歩への悲観論がある一方で、『ザ・セカンド・マシン・エイジ』の著者らの「技術革新は加速しているのにGDP統計が対応できていないだけだ」との主張も捨てがたいと感じる。

次に、潜在成長率≒自然利子率という命題が無条件で成立するわけではない。完全雇用下での貯蓄と投資の均衡という定義にさかのぼれば、長期停滞論の火付け役であるローレンス・サマーズ氏が言うように、1.投資需要の減退、2.人口成長率や技術進歩の鈍化、3.所得格差の拡大、4.新興国の貯蓄過剰など、自然利子率を低下させる要因はさまざまにありうる。

ごく最近は、世界的な成長率の加速から、趨勢的な成長鈍化への懸念は幾分和らいでいる。そのせいか長期停滞という言葉を聞く機会も少し減った気がする。しかし、日本に限らず米国でも欧州でも、景気はよくなっても賃金も物価も上がらないという傾向はますます顕著になりつつある。自然利子率低下の懸念はまだ根強いということになろう。

こうした中、MITのデビッド・オーター教授らがGAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)といったスーパースター企業に注目する議論を展開していることは興味深い。彼らが提供するサービスはしばしば極めて低価格であり、無料のことさえ少なくない。それでいてわれわれは大いに満足(効用)を得ているのだから、GDP統計が過少推計に陥っている可能性は十分にある。

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