大不平等――エレファントカーブが予測する未来
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Branko Milanovic●ルクセンブルク所得研究センター上級研究員、米ニューヨーク市立大学大学院センター客員大学院教授。セルビア・ベオグラード大学で博士号を取得。世界銀行調査部の主任エコノミストを20年間務めた後、米カーネギー国際平和基金のシニアアソシエイトなどを経る。

繰り返される不平等の逆U字波形

評者 BNPパリバ証券経済調査本部長 河野龍太郎

『21世紀の資本』でピケティ教授が発見したのは、戦後に縮小した先進国の不平等が、1970年代以降、再拡大しているという事実だった。本書は不平等をグローバルな視点で分析したもので、昨年、欧米で大きな話題をさらった。

まず2008年までの20年間で誰の所得が伸びたか、アフリカの最貧層から米国の超富裕層まで順に並べ分析する。先進国を中心にトップ1%の所得は65%も増加したが、最大の負け組は先進国の中間下位層で所得はほぼ伸びていない。最大の勝ち組は、中国などアジアの高成長国の中間層で75%も所得が増加した。先進国では、超富裕層の勝者総取りと中間層没落で不平等が拡大したが、中国など人口の多いアジアで所得が増えた結果、驚くべきことに近年、グローバル不平等の拡大は止まり、縮小の兆しすら観測される。

分析期間の20年間で、13億人の中国経済が世界経済に組み込まれ、貧しい農村から豊かな都市への労働移動がほぼ完了した。この間、先進国ではアジアで作られた安価な資本財で労働が代替されるなど、イノベーションとグローバリゼーションの相互作用で不平等が拡大したのである。

それではグローバル不平等はどこに向かうのか。産業革命が始まった19世紀初頭、各国間の格差はわずかで、不平等はもっぱら国内の階級を反映したものだった。その後、欧米の著しい経済成長で各国間の格差が広がる大分岐の時代を迎え、途上国の富裕層より先進国の中間下位層の方が豊かな時代が続いた。今後、人口の多いアジアで高成長が続くと、グローバル不平等は縮小するが、19世紀初頭と同様、不平等は出身国ではなく、国内の階層が規定するようになると大胆に予想する。

農耕社会から工業社会への過程で成長と不平等が進み、その後、不平等が縮小するというのがクズネッツの逆U字カーブの理論だった。本書は、産業構造の変化で逆U字の波形が繰り返されるという新理論を提示する。70年代以降、先進国で不平等が再拡大したのも、ポスト工業社会への移行で、勝ち組と負け組が現れ始めたからなのだろう。

最先端を行く米国では格差縮小の要因は見当たらず、金権政治が蔓延する恐れがある。工業化の過程で格差が広がった中国では、戦後の先進国と同様、今後、縮小が進む可能性はあるが、民主化が進むのか、より独裁的な政治体制となるのかは不明という。主要国の先行きの政治体制を考えるうえでも大いに参考になる。

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