週刊東洋経済 2017年10/7号
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『「超」文章法』の著者が実践

文章作成術は音声認識AIで進化する

INTERVIEW|早稲田大学ビジネス・ファイナンス研究センター顧問 野口悠紀雄

野口悠紀雄氏は、執筆活動に極めて精力的に取り組んでいる経済学者だ。2017年は『ブロックチェーン革命』など4冊を刊行。さらにあと3冊、年内に予定しているという。書籍のほかにも、週刊誌とウェブ媒体で週4本の連載を持ち、これらだけでも毎週の執筆量は1万字以上と推測できる。記者の世界ではこういう人を“書き魔”と呼ぶ。野口氏が著述家ではないことを考えると、まさに魔に魅入られたような仕事ぶりである。

近年の驚異的な文章生産性の秘密は、スマートフォンの音声認識機能だ。昨年刊行の『話すだけで書ける究極の文章法 人工知能が助けてくれる!』は音声認識を使って書き上げたという。AI(人工知能)の技術革新で近年、音声認識の精度が飛躍的に向上しているが、一冊丸ごと「AIで書く」というのは、出版界でも例のない試みだ。

野口氏は15年前に自著『「超」文章法』で、論理的で説得力のある文章を書く技法を披露している。読み手が「ためになり、面白い」と感じるようにメッセージを発することが重要と説き、比喩や引用の具体的な技法もつまびらかにした。この基本を変えないまま、最新技術を取り入れたメソッドは、いわば「超・超」文章法だ。文章をめぐって進化する技法と変わらない本質を、野口氏に聞いた。

早稲田大学ビジネス・ファイナンス研究センター顧問 野口悠紀雄
のぐち・ゆきお●1940年、東京生まれ。63年東京大学工学部卒業、64年大蔵省入省。72年、米イェール大学で経済学博士号を取得。一橋大学名誉教授。2017年から現職。著書は『世界史を創ったビジネスモデル』(新潮社)など多数。(撮影:今井康一)

──スマートフォンの音声入力で、執筆の何が変わりましたか。

これまで書き始めるということが大変だったが、それが非常に楽になった。多くの人は「準備が整ってから始めよう」「構想が固まってから着手しよう」などと構えてしまい、書き始めることをなかなかしない。私は、全体の構想がまとまらなくて稚拙な表現であっても、とにかく書き始めることを心掛けてきた。いったん書き始めれば、自然に内容について考えを巡らすようになり、先へ進むからだ。

これは、ニュートンの慣性の法則と同じことだ。力を加えられた物体は、動き始める。そして、いったん動き始めた物体は、止まることなく動き続ける。文章も「始めれば完成する」。

──そこまで大きく変わるものですか。

これまでとはまったく違う状況になった。PC(パソコン)で書く場合は、机の前に座って、「さあ書こう」と臨戦態勢を取る必要がある。それがスマートフォンを使った音声入力で、思いついたことをいつでも気軽にメモできるようになった。

音声入力でメモを取ることは、昔からの夢だった。1970年代にカセットテープレコーダーで試みたものの、テープでは何がどこに録音されているか、すぐにはわからないので、実用にならなかった。90年代にデスクトップPC用の音声認識ソフトが発売されたときも試してみた。しかし、認識精度が低くて、使えなかった。

それが今や、スマートフォンに話すだけでインターネットを通じてアップルやグーグルのコンピュータにつながり、AIが私の音声データを解析して文字データに変換してくれる時代になった。

寝そべったままでメモを書ける

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