海の地政学──海軍提督が語る歴史と戦略
海の地政学──海軍提督が語る歴史と戦略(早川書房/328ページ)書影をクリックするとAmazonのサイトにジャンプします。
James Stavridis●米タフツ大学フレッチャー・スクール学長。米海軍大将(退役)。米海軍兵学校を卒業後、35年以上にわたり現役の海軍軍人として過ごす。米海軍出身者では初の北大西洋条約機構(NATO)欧州連合軍最高司令官を務めた。国際安全保障に関する論評多数。

問われ続ける日本としての意思決定

評者 福山大学経済学部教授 中沢孝夫

「海」のもつ、深く多様な意味を、専門外の人間にもわかりやすく解いた本である。本書を読み終えた時、読者に伝わってくるのは、私たちの暮らしは世界の平和な秩序によって守られること、そしてその秩序は、圧倒的に米国によって担われていること、その中核は米海軍にあること、だ。むろん、日本を含めた多数の同盟国・友好国とのネットワークも秩序形成に欠かせない。

いうまでもなく世界は、必ずしも「平和」ばかりではない。イスラム圏やアフリカのいくつもの国に見られるように、殺戮・破壊・侵略が横行しており、中国のように南シナ海の新たな支配権をもくろむ国もある。しかし著者が案内する世界の海は、もともと戦乱の日常と交易の場であった。

著者は過去の海戦をたどりながら次のように言う。「もし命を落とした戦士たちの遺体が突然、地中海の海面に浮かび上がったとしたら、その上を歩いて渡れるほどだろう」と。「陸」も同様だが、本書が語る何千年という「戦史」を読んでいると、いや、まったく人類は殺戮に懲りることがない。

危険な航海の合間に、著者が寄港地の将校クラブでのテニスやバーでの時間を楽しむように、私たち地球上の多数の人間は、現在、平和に日常を送っている。それを支えているのは海を守る人たちの見えない努力である。

著者は北大西洋条約機構(NATO)軍最高司令官を務めた後、2013年に退役するまで、37年にわたって米海軍の軍人として、世界の海を航海した。その著者は「ひとつの選択によって人生ががらりと変わることがある」「私たちの人生やキャリアの多くは他者に依存している。そして多くの場合、他者というのはともに働く仲間であり先輩として助言を与える相手でもある」と語る。平凡とはいえない日々を送った人のさりげない真実がここにある。

奥山真司氏が解説しているように「本書はあくまでも『米国の視点』で書かれている」。しかし評者もそれでよいと思った。ものごとは「軸」なしに捉えられない。すべてに対して等距離な客観性など存在しない。著者は「日本の読者」に「日本は海をすべての国家に対してオープンで自由な状態に保つグローバルな海洋同盟の中で決定的に重要な役割を果たし続けるはずだ」と語りかける。

日本に問われているのは、世界の秩序形成に主体的にどう関わるか、という意思決定であることが、本書によってくっきりと浮かんでくる。

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