ヤマト運輸は直近1年間で従業員を約8000人増やしたものの、配送現場の逼迫が続く(撮影:大澤 誠)

10月1日、宅配便最大手のヤマト運輸は個人向けの運賃を平均で15%値上げした。運賃の全面改定は実に27年ぶりだ。

アマゾンなどネット通販(EC)の拡大で急増する荷物量にヤマトの配送現場はパンク。ドライバー不足や長時間労働が深刻化し、サービス残業も発覚した。ヤマトは今年、未払いの残業代約240億円を支払う事態にも追い込まれた。

労働環境の改善を急ぐヤマトは、「サービスを維持するためには適正な運賃をいただく必要がある」として、値上げに動き始めた。

今春から、大口顧客1000社を対象に、法人向け運賃も平均15%以上引き上げるべく交渉を進めている。ヤマトホールディングス(HD)の山内雅喜社長は、9月末までに8割以上の顧客が値上げを受け入れたことを明かした。

山内雅喜社長は中計発表の場で、値上げの意義を熱っぽく語った(撮影:田所千代美)

アマゾンは4割値上げか

焦点は最大顧客であるアマゾン向けの運賃だ。ある国内証券アナリストは、「現状で1個当たり平均280円前後という水準を、400円強へと約4割引き上げる方向のようだ」と話す。

アマゾンはヤマトの宅配便取扱個数の1〜2割を占めるとされる。「仮に4割を超すような運賃の値上げとなっても、体力のあるアマゾンは消費者に転嫁しなくても十分に吸収できるだろう」と通販や物流の業界関係者は口をそろえる。

苦しくなるのは、他社との熾烈な価格競争で消耗しているEC事業者だ。東京に拠点を置くある物流の一括請負業者の元には、配送コストを少しでも抑えたい業者が駆け込んでくるという。同社社長は、「ヤマトの値上げ要請はとにかく強気だ。3〜4割はざらで2倍を超えるところもある」と明かす。

ヤマトが要求する値上げ幅が、顧客によって大きく異なるのはなぜか。ヤマトはかつて大口顧客に対し、荷物のサイズや距離にかかわらず大幅な割引を実施。13年に起きたクール宅急便の品質問題を契機に「運賃の適正収受」を進めたが、「一部の顧客は値上げに応じなかった」(通販大手幹部)。こうした顧客に対し、値上げを迫る狙いがある。ただ、「2〜3年をかけて引き上げるようだ」(同)。

通販大手のベルーナは、従来は5000円未満の注文で390円としていた送料を10月1日から490円に引き上げた。同社の通販事業は増収の一方、コスト削減を進めても、前期比で約9%の減益見通しだ。

宅配クリーニングを手掛けるリネットは、ワイシャツの畳み仕上げの料金を290円から390円に値上げするなど、大半の料金を引き上げた。「配送の質を維持するうえではヤマトの代わりが見つからない」と、運営会社ホワイトプラスの森谷光雄取締役は話す。

ヤマトが荷主に求めているのは、値上げだけではない。荷物の受け入れ量を抑制する「総量規制」もだ。ヤマトは、2017〜18年度の2年間で宅配便の配達個数を16年度比で約1億個減らす計画で、配送現場の負担軽減を急ぐ。

西日本のあるEC事業者は今年8月、ヤマトとの契約を打ち切った。今年2月、同社から荷物量の抑制を求められ、宅配業者の2社活用を検討した。だが物流コストが増えるため、最終的に日本郵便への切り替えを決めた。「ヤマトの担当者は申し訳なさそうにしていた。本社が地方の営業所にも総量規制をそうとう急がせたようだ」と同社社長は話す。

ヤマトHDは9月28日、19年度までの中期経営計画を発表。経営の最優先課題に掲げた「働き方改革」に1000億円を投じる。午後から夜間にかけての配達に特化したドライバー制度を新設。19年までに1万人規模の人員を雇用し、正社員やパート社員の残業の大幅な削減を目指す。

「社員の負担や将来性を考慮し、雇用を安定化させる策を打ち出したといえるが、実現のハードルは決して低くない」(SMBC日興証券の長谷川浩史アナリスト)。宅配業界は慢性的な人手不足のうえ、アマゾンが自社物流網の構築を探る動きもあるからだ。

ドライバー争奪が加速

アマゾンはヤマト以外にも物流の一括請負業者を活用。そのうちの1社、丸和運輸機関はアマゾン向けに東京23区を中心として早期の配送車1万台体制の確立を目指す方針だ。物流コンサルタントの⻆井亮一氏は「軽貨物宅配ドライバーの取り合いが加速するのは確実だ」と指摘する。

ヤマトHDの山内社長は、「今後も社会インフラであり続けたい」と語気を強める。宅配便シェアで半分を握るガリバー企業は、有言実行を貫けるか。

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