筆者は経営学者として、企業の戦略と組織経営に関心がある。華為技術(ファーウェイ)はこれらにどう取り組んでいるのか。中国・深センの本社で、技術を中心とする戦略部門のトップである張文林氏(→インタビュー記事)と、20年にわたる同社のアドバイザーであり、さまざまな制度の策定にもかかわった黄衛偉・中国人民大学教授(経営学)とそれぞれ、じっくり議論した。

20年にわたりファーウェイの経営アドバイザーである黄衛偉教授(左)は、入山氏(右)にガバナンス制度の狙いを語った

この議論の内容を、世界標準の経営学の考え方や欧米企業の経営のあり方を踏まえて理解すると、ファーウェイの強さの秘密は、「正攻法かつ徹底したイノベーション戦略」と「特殊なガバナンス」の2点が大きいといえる。

ファーウェイはイノベーティブな企業であるために、「経営学のお手本」といえるような仕掛けを数多く取り入れている。その取り組みは欧米の優れた企業と本質的に何ら変わらず、徹底度ではむしろ勝る印象だ。日本企業が学ぶべきことは多い。

ファーウェイ本社のエグゼクティブ棟にて。高級ホテルのようなエントランスの向こうで、任正非氏ら経営幹部が執務している

自社の範囲を超えて絶えず外から学ぶ

まずファーウェイは、他社と協業して研究開発に取り組むオープンイノベーションに、本格的に取り組んでいる。ファーウェイは年間売上高の10〜15%程度を研究開発投資に充当するテクノロジー企業。だがいわゆる「自前主義」とは程遠く、多数の企業と深く協力して技術開発を進めている。たとえば張氏は自身の経験として、英ボーダフォンと共同開設したマイクロ波の研究開発拠点(イタリア・ミラノ)を挙げる。ほかにもスマートフォンでカメラの名門ライカと協業、日本でもKDDIとナローバンドLTEの共同開発に取り組んでいる。パートナーは世界に広がっている。

経営学では、イノベーションは既存知と既存知の組み合わせによって生まれるとされる。これはイノベーションの父と呼ばれた経済学者ジョセフ・シュンペーターが、「新結合」という名で約80年前に提示して以来、変わらない原理だ。

だが個人や企業の知には限界があり、組み合わせもやがて尽きる。だから自社の範囲を超えて、絶えず学習することが成長に欠かせない。この点、オープンイノベーション戦略は「外部の知」を得る最も効果的な手段だ。欧米のハイテク大手では、オープンイノベーション戦略はもはや常識である。

ただ異なる企業同士が互いの技術や知識を出し合うのは、決して簡単ではない。企業間で深い信頼関係を構築することが不可欠だからだ。ファーウェイが多くの企業と関係を構築できているのは、協業相手を含む、顧客を重視する視点が一貫してあるからだ。あらゆる場面において、顧客・取引先が何を求めているかまず考えるという姿勢は、創業者の任正非(レンツェンフェイ)氏が過去30年にわたって号令をかけ続け、企業組織に深く浸透させた。

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