木内登英 野村総合研究所 エグゼクティブ・エコノミスト
きうち・たかひで●1987年から野村総合研究所所属。日本経済の分析、ドイツ、米国で欧米の経済分析を担当。2004年野村証券に転籍、07年経済調査部長兼チーフエコノミスト。12年7月から17年7月まで日本銀行政策委員会審議委員、この間独自の視点で提案を行う。7月から現職。(撮影:尾形文繁)

ゴルディロックス(適温)経済という言葉が、金融市場で盛んに使われるようになってきた。これはイギリスの童話「ゴルディロックスと3匹のクマ」から来た言葉で、強すぎず弱すぎず、安定した経済成長が続いているとの見方を意味する。

この言葉は、グローバル金融危機が起きる前に楽観ムードが広がる中で多く使われていた。その際には、安定した経済や金融環境が非常に長く続くという期待の裏側で、実は米国不動産市場、家計債務、各種金融商品に大きな歪みが累積していった。それが2008年のグローバル金融危機という経済・金融の歴史的な大幅調整へとつながったのである。

このゴルディロックスという言葉が、実際にどの程度の頻度でメディアに登場したかを検索(日経テレコンによる)してみると、前回ピークに達したのは、サブプライムローン問題が本格的に浮上するきっかけとなった07年8月の「パリバショック」のまさに直前、07年上期であり、その使用数は31件だった。その後減少したが、16年下期から再び増加に転じ、17年7〜9月期のわずか3カ月間で72件(半期換算で144件)にも達している。

ゴルディロックスという言葉が、金融市場の強い楽観論と結び付いてきたのは、金融政策の見通しと関係していると考えられる。

景気回復が続いてインフレリスクが浮上してくると、中央銀行はそれ以前の金融緩和を縮小する正常化策に着手する。その時点で金融市場は概して慎重となり、さらなる金融緩和縮小、金融引き締め策がもたらす長期金利上昇や景気減速などを強く警戒するようになる。ところが、ゴルディロックス下では、インフレリスクも限定された状況になり、金融緩和の縮小ペース、金融引き締めのペースが当初懸念していたよりもずっと緩やかなものになるとの期待がしだいに高まっていく。その結果、長期金利上昇や景気悪化への懸念が薄れ、金融引き締めの下でむしろ楽観論が強まっていくのである。

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