経済成長という呪い: 欲望と進歩の人類史
経済成長という呪い: 欲望と進歩の人類史(東洋経済新報社/222ページ)書影をクリックするとAmazonのサイトにジャンプします。
Daniel Cohen●フランスを代表する経済学者であり思想家。仏パリ高等師範学校経済学部長。仏パリ経済学校(EEP)教授、仏ル・モンド紙論説委員。1953年チュニジア生まれ。2006年に経済学者トマ・ピケティ氏らとEEPを設立、元副学長。著書に『迷走する資本主義』など。

人間的成長の「社会的引出権」を提唱

評者 北海道大学経済学研究院教授 橋本 努

未来学や人類史の新たな知見をちりばめつつ、社会の指針を示した啓蒙の書である。

18世紀の経済成長率は年0.5%、19世紀は1%、20世紀は2%だった。このペースで21世紀は、4%の経済成長を期待できるのだろうか。「内生的成長」の理論家たちによれば、人口増加の観点からそれが見込めるという。

未来学者のカーツワイルも楽観的で、社会は加速度的に発展するとみる。10万年前にホモ・サピエンスが誕生、1万年前に農業が成立、1000年前に印刷術、100年前に電気、10年前にインターネットがそれぞれ誕生した。こうした加速的な進化が続けば、まもなく脳内の全記憶がUSBメモリに保存可能となり、2060年頃には分子サイズのロボットが発明され、老化を反転させて脳を再生できるという。

もちろん楽観論者ばかりではない。経済学者ゴードンによると、20世紀には下水道の完備や電化製品の登場、自動車や飛行機や映画やエアコンなどの発明によって社会は飛躍的に進歩した。ところが最近の革命はスマートホンくらいで、しかもこの分野の技術は新しい労働力を吸収していない。ゆえに社会全体の生産性も上がっていないとみる。

情報革命の潜在力はあっという間に枯渇してしまうかもしれない。未来は環境面でも制約的で、温暖化や資源の枯渇に直面する。ますます閉塞するポスト工業社会に暮らす私たちは、はたして経済成長よりも、文化的な自己表現の活動に生き甲斐を見つけることができるのかどうか。心理学者のイングルハートはそのように予測するが、著者は懐疑的である。

21世紀になっても、経済的サバイバルの問題が解決されるわけではない。人々は相変わらず無限の物質的豊かさを追い求めている。人間の欲望は他者の影響を受けるため、心休まることがない。著者によれば、だからこそ経済成長が必要であり、成長は人々が現在の境遇から這い上がる機会という「儚(はかな)いが常に更新される希望」を与えてくれるという。逆に経済が停滞すれば暴力が再燃する。犠牲になるのは少数者たちだ。

経済成長は暴力を防ぐ効果がある。成長が望めなければ、法学者シュピオのいう「社会的引出権」(勉強する、休暇年度を取得する、新たな職業を経験するなどの権利)を推奨すべき、というのが本書の提案で、これは人々を人間的成長へ誘うための理念といえるだろう。

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