日本一の売上高を誇る伊勢丹新宿本店。だが、その潜在能力を生かしきれていない

9月下旬、三越伊勢丹ホールディングス(HD)で発表された人事が社内に衝撃を与えた。数人の部長が同時に役職のない部付きになったり、関連会社への出向になったりしたためだ。

部長級以上の幹部人事は春に行われるのが通例。しかも今回は事実上の降格人事であり、異例中の異例だ。

人事部長が出向

中でも注目されたのが、岩品浩通・人事部長。岩品氏は10月から、テナント管理や店舗内装などを手掛ける子会社への出向になった。

岩品氏は旧伊勢丹入社以来、人事畑を歩んだ。「社員全員の顔と名前が一致する」といわれるほど、熱心な仕事ぶりで知られる。これまで三越伊勢丹が進めてきた構造改革の中心メンバーの一人だった。

そんな人物がなぜ要職を離れたのか。きっかけは、4月にできた「サポートチーム」。基幹3店(伊勢丹新宿本店、三越銀座店、三越日本橋本店)の販売応援の名目で立ち上げられた。ただ、指名された30~50代の五十数人は、東京・日本橋にあるビルの一室に集められ、十分な仕事が与えられないまま。事実上の余剰人員対策だった。

岩品氏はそのサポートチームの運用の中で、不適切な発言があったとされる。その発言が上層部へ告発されたのだ。同チームは今秋までに解散。課題だった余剰人員対策は何も進まず、岩品氏だけが責任を取った。後任の人事部長には初めて旧三越出身者が就いた。

ほかの幹部の異動理由は、いわゆるパワーハラスメントだ。もともと旧伊勢丹は業界きっての“体育会系”だったが、ここにきて三越伊勢丹でパワハラ問題が表面化している。

大西洋・前社長の電撃解任を受けて今年4月に就任した杉江俊彦社長は、「日本一働きやすい会社」を標榜。7月にはグループ共通のホットラインも開設し、パワハラ撲滅に力を入れてきた。そうした取り組みが、異例の幹部人事につながったともいえる。

だが、その反動として社内には「何も言わない、事なかれ主義が蔓延している」(現役社員)。サポートチームの一件以降、特にその傾向が強くなっているという。「上司が物を言えず、“逆パワハラ”すらある。かつての伊勢丹には言いたいことを言える雰囲気があったが、もはや過去の話だ」(同)。

50歳で5000万円

三越伊勢丹HDは11月7日、2018年3月期の中間決算と合わせ、中期経営計画を発表する。杉江社長は5月に計画の方向性だけを示しており、具体的な数値目標は中間決算時に発表する、と会見や株主総会で“公約”していた。

杉江社長が示した方向性は「シュリンク&グロー」。大西時代の「負の遺産」を整理し、次の成長につなげる。今期は一度縮こまり、その後利益のV字回復を果たすシナリオだ。

しかし改革にはチグハグさが目立つ。店舗面では、地方5~6店で抜本策が必要といわれる。そのうち伊勢丹松戸店については、地元との約1年にわたる交渉の末、早ければ来春に閉鎖する方針だが、それ以外の具体策が見えない。

杉江社長は社員との「対話」を重視してきた(撮影:今井康一)

もう一つの柱である人件費削減策について杉江社長は5月、希望退職は募らず、既存の早期退職制度である「ネクストキャリア制度」の拡充によって対応すると公言していた。

10月、ようやく労働組合に提示された新制度は、まさに大盤振る舞いだ。医薬品メーカーの事例をベンチマークにして作られ、48~54歳で退職金が大幅に積み増しされた。たとえば50歳の部長職では、これまで2700万円だった退職金が、5000万円に急増する。

新制度は「要員数の多いバブル入社組を狙い撃ちにした」(関係者)。制度は少なくとも3年間継続、春と秋の年2回募集する。その一方で、全体の人件費を抑制するため、来春以降、業績連動型賞与などの給与体系を大幅に見直す予定だ。

別の関係者は「これほど積み増ししたら、社員が働かなくなる。それを1年ではなく、数年にわたり続けるとは」と絶句する。

新制度に応募するかは社員次第。希望退職のように何人といった枠も設けない。ここからは5年先、10年先を踏まえた戦略性を感じ取ることができない。

しかも新制度による募集は11月初旬から始まる。つまり7日に発表する中期経営計画は、退職人数がわからないまま、数値目標を公表することになる。これでは株主や市場との約束を果たしたとはいえないだろう。

赤字子会社の処理も課題だ。先月発表された、スーパー「クイーンズ伊勢丹」の運営子会社の売却。来年3月末に投資ファンドに株式の約3分の2を売却、再建を果たせば、将来株式の買い戻しも検討するという。ただ、運営子会社は現状で20億円を超える債務超過。売却前にさらなる損失処理を迫られる可能性があるが、詳細はこれから詰めるという段階だ。ほかにも赤字の続く子会社は残っている。

最大の問題は、将来の成長戦略が見えてこないことだ。実は今夏以降、基幹3店を中心に、三越伊勢丹の売り上げは回復基調にある。株高で高額品が好調なうえ、訪日外国人の消費が再び戻ってきたからだ。ただ、こうした追い風はいつまでも続きはしない。

百貨店にこだわるのか、それとも非物販など新事業に軸足を置くのか。あるOBは「戦略がないから社内対立ばかりが目立つ。パワハラ問題も、そうした中で表面化したのだろう」と指摘する。杉江社長の胆力が試されている。

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