学生運動が盛んな時期に学生だった池上氏は、時代に流されず勤勉に学習した。それが現在の言論活動につながっている。(時事)

池上彰氏の書籍はいずれもベストセラーになる。また、テレビでのニュース解説が視聴者に受け入れられ、世論形成においても無視できない役割を果たしている。21世紀になってからマスメディアで活躍している人の中で、最も成功している一人が池上氏だ。池上氏の成功の秘訣は、読者、視聴者に信頼されていることだ。筆者も池上氏の言説を信頼しているので、同氏の論評が目に触れると必ず読む。

ここで池上氏が信頼される根拠について考えてみよう。そのことは、池上氏だけでなく、どの有識者を信頼することができるかという基準を可視化することにつながる。筆者の結論を先に言うと、池上氏は、日本のジャーナリズムではまれな、書き続けているジェネラリストなのだ。これにはいくつかの要素が複合している。ある人の物の見方、考え方を知るためには、その人が育った時代と環境について調べることが重要だ。

池上氏は、1950年8月生まれで、現在64歳だ。筆者は60年1月の早生まれなので、10歳下だが学年は9年下になる。この世代差で重要なのは、大学紛争が与えた影響だ。池上氏は73年に慶応義塾大学経済学部を卒業し、NHKに入った。同世代の人が大学に入学した頃は、学生によるストライキや大学によるロックアウトで、授業が正常になされていなかった。また、69~70年ごろに機動隊が導入されて大学が正常化した後も、60年代半ばまで大学教授が持っていた権威はなくなり、紛争後の疲れで教授陣も無気力になっていた時期である。

筆者の知る範囲で、この世代に属するジャーナリストや学者、あるいは外務官僚には要領のよい人が多い。熱心に学生運動をやっていたが、機動隊導入後は学生運動から離れ、一流企業や官庁に就職するという現実的選択をしたのであろう。そういう人は、仕事に熱中し、出世競争に火花を散らしているように見えても、どこか根源的なところで冷めているところがある。価値観に対してはシニカル(冷笑的)だ。

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