[今週の眼]早川英男 富士通総研エグゼクティブ・フェロー
はやかわ・ひでお●1954年生まれ、愛知県出身。東京大学経済学部卒。米プリンストン大学経済学大学院にて修士号取得。77年日本銀行に入行後、長年にわたって主に経済調査に携わる。調査統計局長、名古屋支店長、理事などを歴任し、2013年4月から現職。(撮影:梅谷秀司)

「欧州の苦闘は今年もまだ続く」というのが、年明けからの偽らざる実感である。パリでのテロ事件は別にして、経済面で最も注目されたのは欧州中央銀行(ECB)がついに量的緩和に踏み切ったことだろう。だが、その直前にスイスの中央銀行であるSNBが1ユーロ=1.2スイスフランを上限とする実質的な為替ペッグを突如放棄し、市場にショックを与えた点にも注目すべきである。

この政策は、スイスフラン高に悩まされてきたSNBが2011年秋に始めたものだ。当初は「強いコミットメントを示せば、実際の介入なしでも相場は維持できる」などと賞賛を浴びたが、ユーロ圏の混迷から想定外の長期戦を強いられ、外貨準備は名目GDPの7割まで増えてしまった(それでもスイスはいまだデフレから抜け出せていない)。そこへECBの量的緩和を前にしたユーロ安圧力が加わって、とうとうペッグの放棄を余儀なくされたのだ。ユーロがスイスフラン対比で2割近く下がったため、同国は外貨準備で莫大な損失を被ったことになる。

これは、巨額の国債購入で実質的な長期金利ペッグを行っている日銀の姿と重なって映る。「異次元緩和」も緒戦は鮮やかだったが、原油安の影響もあって日銀が掲げる2%のインフレ目標達成は遠のくばかりだ。昨年10月の追加緩和で、日銀の長期国債保有額はこの年末には名目GDPの6割に迫る。うまく2%インフレにこぎ着けても、長期金利が正常化(=国債価格が下落)すれば、巨額の損失が発生するだろう。「出口を語るのはまだ早すぎる」としても、日銀はこの事実を国民に告げておくべきではないのか。

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