1月23日、香港中心部のホテル。伊藤忠商事の岡藤正広社長は、深い安堵感に包まれていた。社運を懸けた交渉がやっと実を結んだのだ。「ストレスが心臓に来て、2回も検査を受けた。もう、こんな交渉は金輪際やりたくないわ」(岡藤社長)。

岡藤社長と固い握手を交わしたCITICグループ(中国中信集団)の常振明董事長、タイのチャロン・ポカパン(CP)グループのタニン・チャラワノン(中国名は謝国民)会長も、長くタフな交渉を終えた高揚感を隠せずにいた。

伊藤忠がタイ最大の財閥であるCPグループと組み、中国きっての巨大コングロマリットであるCITICに1.2兆円もの巨額投資を行う。そんな、同社史上最大のディールが成約にこぎ着けたのだ。

CITICは傘下に中国1位の信託会社や証券会社、同7位の銀行などを抱え、金融を中心に事業を拡大してきた。伊藤忠が出資するのはCITICグループの中核子会社で、香港証券取引所に上場するCITICリミテッド(中国中信股フン)。最終的には、伊藤忠とCPが6000億円ずつを投じてCITICリミテッドの株式の2割を取得する。

当初の提案は「6%」 伊藤忠は2割に固執

難航した交渉の経過を物語るかのように、提携のスキームは複雑なものになった。2015年4月にCITICの中間持ち株会社から、伊藤忠とCPがそれぞれ50%折半出資するCTB(正大光明)へ5150億円で株式10%を売却(図表1-1)。その後、10月に普通株13.4%相当の優先株式を6890億円で引き受ける(2)。16年1月までには普通株へ転換し、伊藤忠とCPの出資比率は計20%に達する(3)。

[図表1]
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最初に動いたのは、CITICリミテッドのトップを兼ねる常董事長だった。懇意のCPグループ幹部に、「CITICリミテッド株を5~6%取得しないか」と持ちかけたのだ。もともとCITICパシフィック(中信泰富)という名前だった同社は、14年8月に系列企業の主要資産を総額370億ドル(約3.8兆円)で買い受けてグループの中核企業に変身したばかり。同社が上場する香港市場は中国市場よりルールが厳しいことから、経営の効率化や透明化が進むという触れ込みだった。それに先立ち、内外の25社からの出資を新たに受け入れている。

それでもなお、CITICリミテッドの株式はCITICグループが78%を保有しており、浮動株比率25%以上を原則とする上場基準に達していなかった。常董事長には、そうしたグレーな状況を解消したいとの思惑があった。

CPグループの謝国民会長は伊藤忠を出資話に巻き込んだ(Getty Images)

しかし、6%程度の出資ではお付き合いの域を出ず、CPグループとしてもメリットがはっきり見えない。CPグループ中国法人は、資本提携を水面下で交渉していた伊藤忠に相乗りを持ちかけた。

伊藤忠はひとまずCPグループとの縁組みをまとめることを優先し、CITICとの交渉を本格化したのは昨年10月に入ってから。このとき、伊藤忠が示した条件が、CPと伊藤忠の連合軍でCITIC株の20%を押さえることだった。これが、交渉の最大の焦点となる。

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