コラボ企画キックオフ対談

#0

企業と子どもの成長
共通するのは「ビジョン」週刊東洋経済プラス 山川清弘編集長/朝日小学生新聞 別府薫編集長

撮影:梅谷秀司

『週刊東洋経済プラス』(以下『プラス』)が2016年5月にサービスを始めて7カ月。『プラス』では『週刊東洋経済』のDNAをデジタルの世界に伝播させながら、これまでになかった新たな試みを始める。ジャンルも毛色も違う朝日小学生新聞(以下『朝小』)と共同で取材をして、1つの記事を作り上げようというものだ。似ても似つかない『プラス』と『朝小』だが、山川・別府両編集長は「子どもの未来をよりよくするための、企業の取り組みを伝えたい」ということで一致する。2人の未来に対する思い、子どもに対する思いとは。

宇宙エレベーターは
乗り物酔いするの?
本質を突く、子どもの「質問力」

山川 今日はよろしくお願いします。コラボ企画でのご協力、ありがとうございます。

別府 こちらこそありがとうございます。

山川 すでにいくつかの企業に「朝小リポーター」(朝日小学生新聞読者から公募する子ども記者)たちと取材に行かせていただいて、僕自身が多くの刺激を受けています。記事ができるのが楽しみですね。

別府 率直なところをお伺いしたいのですが、うちの子どもたち(朝小リポーター)はいかがですか。

山川 第一印象は、みんなすごく予習してくる。質問も、5個も10個もきちんと考えて持ってきてくれる。それに、大人ではなかなか考えつかないような角度の質問が飛び出したりしますね。連載第1弾で取材した宇宙エレベーターの大林組では「宇宙エレベーターで乗り物酔いはするんですか」(小学5年の星さん)と。聞いた瞬間は“子どもらしくてかわいい”なんて思いましたけど、そこのところって本気で開発をしようと思ったら解決しなければいけない課題なんです。
宇宙エレベーターって片道3週間かかります。飛行機だって24時間乗ったら、相当疲れるし、酔う人もいますよね。安全性は当たり前の話で、人間を運ぶ場合にいかに快適にするかというのはこれからのテーマになるだろうと言われているんです。

別府 じゃあ、結構鋭い質問をしているんですね。

山川 はい。意外と子どもの素朴な感性が新しい技術開発のきっかけになっていることはあるんだろうと気づかされましたね。

朝日小学生新聞 別府薫編集長

別府 子どもを連れていくとき、マッチングにはかなり気を使っているんです。子どもなら誰でもいいというわけではなくて、うちはリポーターを募集するときにかなり事細かく趣味嗜好ですとか、習い事や将来の夢とか、そういうのを書いてもらうんです。「だからあなたを連れていくんだよ」という理由づけをちゃんとしてあげると子どもは自信を持って行きますし、500人もいる中から選ばれたんだという気持ちで行くので、そこはやっぱりすごく大切だと普段から感じています。
実は宇宙エレベーターも、選ばれた子が行けなくなって残念がって泣いちゃったりしました。ご本人の都合が悪いからとお母様がお断りになったんですけれども、それでも「行きたかったのに!」と。時間的、地理的なこともあるのでその辺は難しいです。

山川 朝小さんならではの苦悩ですね。今回のコラボ企画は朝小さんの50周年も大きくかかわってきますね。あらためて朝小さんをご紹介いただけますか。

別府 私ども朝日学生新聞社は、『朝小』の前身「小学生新聞」を発行するために、1967年に創業しました。今日は、創刊号を持ってきました。『朝小』をご理解いただくにはこれがいちばんだろうと思いまして。この創刊号で「ぼくらの新聞」ということを見出しでうたっています。それまで「新聞」というと大人のものだったけど、お父さんでもお母さんでもなく、子どもたちの新聞ができたよということを創刊号でうたっています。

朝日小学生新聞

世の中に起きているいろいろなニュースとか、情報とか、それから子どものためになるような読み物まで、全部子どもたちのために取材するという、子どもたちのための情報を毎日届ける新聞だというのが私たちの最大の特徴だと思います。
その一方、「参加型」の側面がありまして、この頃1967年ですから、その後に札幌五輪にも子ども記者を派遣して取材してもらったりしていたんです。今では「朝小リポーター」と呼んでいますが、そういう子ども記者が今では全国に大体500人いまして、その時々の身近な話題をリポートで寄せてくれます。それから今回、山川さんとご一緒させていただいているように、一緒に取材に行ったり、大人に代わってインタビューしたりという、そういう活躍の場がいっぱいあります。

創刊当時の『週刊東洋経済』(復刻版)

山川 僕が編集長をしています『プラス』は、『週刊東洋経済』の記事がそのままデジタルでも読めるサービスです。というわけで、『プラス』を語るにはまず、『週刊東洋経済』のご紹介をしようと思い、創刊号を持ってきました。弊社では、総理大臣にまでなった石橋湛山がすごく有名なので、彼が創業したとよく勘違いされますが、町田忠治という人物によって、1895年に創刊と同時に創業されています。
創刊号の最初のページで発行の趣旨を自分で書いています。時代的には日清戦争が終わったところで、これから日本がアジアを中心に海外に対して輸出で国をつくっていくときに、政治家や企業に対して、経済メディアがいろいろと監視、提言をしていったほうがいいだろう、道案内人がいたほうがいいだろうと。そのために私は創刊しますということをうたっています。

東洋経済のリソースで
子どもたちの「経済教育」を

別府 創刊以来1週も休むことなくずっと発行し続けているんですよね。

山川 創刊当初は旬刊発行でしたが、発行以来、一度も休んでないですね。むしろ東日本大震災のときに、紙がひょっとすると間に合わないんじゃないかということがありましたが、そのときもちゃんと発行できました。

別府 120年の間で、読者層の移り変わりというのはいかがですか。

山川 創刊当初は、資産家、企業の経営者、あるいは政治家というところが多かったと言われていますが、戦後、日本のGDP、かつてはGNPでしたが――、が大きくなってくるにつれて、一般のビジネスパーソンの方が広く読んでくださるようになって、経済メディアが隆盛になりました。一般的な日々のニュースや経済情報は新聞、ラジオ、テレビで得られるけれども、もう少し深掘りをしたい、業界の中で何が起きているかとか、起きているニュースの意味づけというのはどういうものなのかという情報を得るために経済誌を買ってくださる方が増えてきたということです。
いま『週刊東洋経済』を定期購読してくださっている方のボリュームゾーンは40代~60代ですが、20代の後半ぐらいに経済誌を読んでおきたいということで購読を始められたという方が多いですね。

別府 20代後半というと、最初に何かちょっと役がつき始める頃ですね。

山川 そうですね。やっと一人前になって、会社のこと、世の中のことがわかるようになって、仕事を自分の裁量でできるようになってくるけれども、もう一段上を目指そうとすると、もう少し深掘りした情報を知りたいと考える頃です。

別府 今回『朝小』とコラボする意味はどのように考えていらっしゃいますか。

週刊東洋経済プラス 山川清弘編集長

山川 一言で言うと、子どもたちへの経済教育でしょうか。おカネに対する価値観や、おカネの教育という部分で何かわれわれがお役に立てるんじゃないかという思いがあります。米国などで経済教育は小さい頃から行われていますが、今の日本ではないですよね。そういった潜在的なニーズにわれわれのコンテンツはちゃんとはまっていくと考えていました。

別府 経済って人の営みですよね。だから、子どもたちの未来というか、未来そのものにダイレクトにつながっています。
50周年を機に、私たちの会社を見つめ直しましたが、やっぱり「子どもたちの未来を応援する」というのが本当に会社としてのゴールというか、使命なんですよね。50年という節目の年でもありますので、子どもたちと一緒にどんな未来があるのか見に行こうと。そういうときに東洋経済さんのナビゲートがあるのはとてもありがたいです。

山川 実は、弊社刊行の『会社四季報』がまさに未来をナビゲートするものなんです。投資家たちは明日明後日の株価に反映するような情報を欲しがりますが、株価を動かすような情報を得るために、「今度こういう新商品の開発を始めた」「こういうところに新しい商品性を感じている」ということを取材するんです。それらを「材料」と言いますが、そういういい材料が出てきたと判断すると株価が上がったり下がったりするんです。それは結局、将来的な企業の業績を左右する経営戦略をちゃんと企業は持っているかということを確認することにつながるので、未来も見ているというところがあります。

別府 「材料」以外では会社を見るポイントにどんなものがありますか。

山川 1つ挙げるとすれば、社長のビジョンがはっきりしていることはすごく大事ですね。社長にインタビューしても、何が言いたいのか伝わりにくい会社は迷走することもあります。
それから、これは取材される側からはいろいろと反論はあると思いますが、なかなか取材させてもらえないということは、やっぱり何か都合の悪いところがおありなんじゃないのかなと。基本的に取材を受けない、というところはあまりよくないことが起こるケースが多いと思います。

別府 子どもたちが成長していくときにも、ビジョンを描くことが共通するところなのかなと思います。法人と人間は違うのかもしれないですけれども、やっぱり将来の夢を描けないと成長もできないのかなと。

山川 それはあるかもしれませんね。企業で言えば、自分たちのジャンル、エリア、マーケットというものがあって、そこの将来像を読んで、商品やサービスの開発をすることが王道です。ただ、失敗も軌道修正もしてもいいと思うんです。それは企業も子どもも。何も考えずに言われたことを一生懸命やる、というのと、なりたい将来の自分が描けていて、そこに向かって一生懸命やるべきことをやる、というのでは大きく違うと思います。

大人から子どもへバトンタッチ
その連続の先に未来がある

山川 今回のコラボは、『朝小』と『プラス』というまったく毛色の違う媒体だからこそ実現できた企画とも言えます。媒体が違えば、読者層も異なりますし、つまり同じニュースを扱っても切り口が変わります。たとえば昨日(2016年11月30日)、「任天堂が日米でテーマパークを建てる」というニュースが出ていまして、それを『朝小』だったらどういうふうに記事にするかお話いただけますか。
僕から言いますと、これは『プラス』だったら、まず“斜め”に見てしまうんですよ。記者としての実感で言えば、任天堂は往年の勢いがない。なので、任天堂好きの子どもたちには大変申し訳ないのですが、本業のゲームじゃないところでテーマパークを出してくるということは、それは何か裏事情があるんじゃないかと探りますね。もし探ってもそういう話が出てこなくて、むしろこれは5年、10年前から温めていて、たまたまこのタイミングなんだということがある程度はっきりするのであれば、その事業性であるとか、他の先行事例を元に記事を作ると思います。ディズニーランド、サンリオピューロランド、USJなどですよね。そういう類似の例と比較しながら、任天堂がどれぐらい本腰なのかなというところをにらみながら事業性を評価するでしょうね。実際、任天堂の場合は故・岩田聡前社長時代からUSJと提携しています。

別府 私たちが紙面化するなら、日本のコンテンツがクールジャパンと言われていますけれども、日本のキャラクターが海外ですごく受けているのはどうしてかなとか、任天堂の記事を入り口にそういうふうに広げていくような形になると思います。
実は、実際企画を出していた記者もいました。リオの閉会式でマリオが出てきて、世界の人が「わあ!これが日本だ!」ってなったわけです。もうそういうコンテンツなんですよね。今度アメリカにも行くわけですから、コンテンツとしての日本のゲームとかアニメの魅力を記事にすると思いますね。

山川 やっぱり切り口は全然違いますね。今回のコラボ記事は『朝小』とはまったく異なる読者層、ビジネスパーソンの目に触れるわけですが別府さんはどういうところをお伝えしたいですか。

別府 いちばんは、やっぱり「皆さんの後に続く世代は着々と育っていますよ」と感じていただきたいですね。そして、そういう子たちのためにも、いい技術、いい会社とか、そういうものを残したい、と思ってもらえるとうれしいですね。具体的な次世代像みたいなものが見えるといいなと思います。
逆に、『朝小』のコラボ記事を読んで、「じゃ東洋経済を見てみよう」と思う子どももいると思うんです。そんなとき、どんなものが子どもたちに参考になりますか。

山川 大林組の話でいえば、『会社四季報 業界地図』には宇宙開発のページがありますから、宇宙が好きな子どもは三菱重工業やIHIを目指すようになるかもしれません。一方で、大林組の名前は宇宙開発分野に出てこないんですね。それはやっぱり大林組はゼネコンが本業だからなんです。子どもたちは、宇宙エレベーターをつくろうとしている会社が実は建設会社だったということもわかるでしょう。そういうふうに情報をたどっていけば、もしかしたら、もともとは宇宙が好きな子が『プラス』を読んでゼネコンに興味を持つということもあるかもしれませんね。
それと、これはビジネスパーソン向けかもしれませんが、基本的に過去記事が創業以来120年分あるわけですから、そこが強力なコンテンツになると思います。いま世界史や日本史を学び直すという本が売れていますけれども、温故知新でもう一回長い目で経済も含めて歴史的な流れに学ぼうというニーズがすごくあります。たとえば、何か大きな事件が起きたとき、その評価は、過去に起きた事件の構図との類似性に頼ったりするわけです。何が起きていて、どういう議論がされていて、どういう評価をしていたのかというところまで掘り下げてあるというのが『週刊東洋経済』の強みです。そこを上手に提示して、あるいはそれをもう一回紡ぎ直して読者の方に提供することによって新しい視点、切り口を提供できると思っています。ただ、現在アーカイブを整理中で、一気にお見せすることはできないのが残念なところです。

別府 そういうコンテンツは、発展学習につながりそうですね。自由研究の課題にして、会社見学をしてみようとかいうふうになるといいなと思います。

山川 では最後に、今回は未来という言葉がキーワードですが、われわれ大人たちが未来のために、子どもたちのために何ができるか、別府さんがお考えのことはありますか。

別府 未来って先のことではあるんですけれども、大人から見るとバトンタッチというか、バトンを渡していくという作業なのかなと思うんです。もちろん企業の方たちも、その次の世代のために努力していらっしゃると思うので、そのバトンをうまく子どもたちに受け渡してあげたり、子どもたちもうまく受け取って走り出してもらいたいなと、そういうイメージです。

山川 未来って、現在からつながっているというところがすごく大きいですよね。僕らも子どもの頃、21世紀はすごいことになると過剰な期待を持ったり、核戦争で人類が絶滅しちゃうんじゃないかみたいに不安になったりしましたけれども、現在からつながっているところが未来であり、自分たちの子どもたちが大人になって、さらにその子どもたちが大人になっていくのが未来なんですよね。一足飛びにとんでもないことは起きなくて、結局は世代を超えて自分たちの思いをどうつないでいくかということに尽きると思うんです。われわれ大人のまじめな生き様をきちんと子どもたちに伝えていけば、子どもたちはそれを受け継いで、よりよい未来をつくっていくと期待しています。

  • 別府薫(べっぷ かおる)

    別府薫(べっぷ かおる)

    朝日小学生新聞 編集長。日刊全国紙「朝日小学生新聞」と週刊全国紙「朝日中高生新聞」を発行する朝日学生新聞社に、1995年1月入社。編集部の記者、デスク、統括デスク、編集委員を経て、2016年11月から現職。

  • 山川清弘(やまかわ きよひろ)

    山川清弘(やまかわ きよひろ)

    週刊東洋経済プラス 編集長。東洋経済新報社入社後、放送、銀行、コンビニ等の業界を担当。『会社四季報プロ500』編集長などを経て2015年より現職。オックスフォード大学ロイター・フェロー。証券アナリスト。

50周年記念企画 「未来を見に行こう」

子ども向け全国紙、朝日小学生新聞の創刊50周年記念企画。「最新の事象がコンパクトにわかりやすくまとまっている」と、経営者やビジネスマンの間でも密かに支持されている『朝小』と「週刊東洋経済プラス」が「未来を見に行こう:現場編」としてコラボレーション。未来の技術をテーマに、子ども記者と『プラス』編集長山川の異色タッグが企業に共同取材します。『朝小』紙面で月1回程度連載、『プラス』でも転載記事が公開されます。

朝日小学生新聞

「週刊東洋経済プラス」は
『週刊東洋経済』にWebならではの価値をプラスした
新しい経済メディアです。

「週刊東洋経済プラス」は、総合経済誌『週刊東洋経済』のすべての記事をWeb(PC・スマートフォン・タブレット)で閲覧できる会員制サービスです。

会員登録なしでもWeb独自コンテンツ「プラスの視点」をお読みいただけますが、東洋経済ID(無料)にご登録していただくと無料会員記事を閲覧できます。

さらにプラス会員(有料)にご登録いただくと、すべての記事がWebで閲覧でき、『週刊東洋経済』が毎号お手元に届きます。ほかにもセミナーご招待などの特典をご用意いたしております。

週刊東洋経済プラスについて詳しく見る