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探査車のボディーを作る東レ・カーボンマジック社 ソラトの試作機の前でポーズを決める黒田さん(左)、秋元さん(中央)、中西さん=滋賀県の東レ・カーボンマジック社

転載元
朝日小学生新聞
2017年(平成29年)7月24日(月)

指令月面探査レースに挑むのは
どんな探査車?

今回は探査車のボディーを作る東レ・カーボンマジック社を取材しました。
こども編集長
さん
黒田拓希(くろだひろき)さん
大阪府・小学6年生
さん
中西凜々子(なかにしりりこ)さん
京都府・小学6年生

「夢の素材」で軽~く
月に行ければ勝てる

月に行くかもしれないソラトの足部分のネジを回す黒田さん

工具を手に、おそるおそる探査車(ローバー)の部品についたねじをしめてみた黒田さん。月面を走るかもしれない「本物」を前に、自然と笑顔がこぼれます。

ローバーの名前は「SORATO」です。世界初の月面探査レース「グーグル ルナ Xプライズ」に参加するため、日本のチーム「HAKUTO」が作りました。このレースは民間の力だけで月面でローバーを500メートル以上走らせます。はっきりとした動画と写真を最初に地球に送ったチームが優勝です。

参加チームは、日本のハクト、アメリカ、イスラエル、インド、国際チームの五つ。ソラトはインドチームのロケットに相乗りして、12月28日に打ち上げられる予定です。

4月、ハクトがソラトのボディーを作る東レ・カーボンマジック社(滋賀県米原市)の工場を公開し、こども編集長の2人は製造工程を取材しました。

炭素繊維を重ねてできた強化プラスチックの表面。炭素繊維があみこまれている様子がわかります。

この工場では、航空機のボディーなどに使われる炭素繊維を作っています。軽くて強い「夢の素材」で、繊維の細い糸を編んでシート状にし、何枚も重ねて焼き固めて作ります。炭素繊維でできたサングラスをかけた中西さんは、思わず「かる~い!」。チームは、この軽さがソラトの強みになると考えています。

部品製造から組み立てるまで、ほぼすべて職人による手作業です。組み立て工程では、職人がねじをしめて部品を取りつけ、熱に強い特殊な接着剤で固定していました。月の表面温度は100度を超える時間帯があるため、接着があまいとはがれてしまい、逆に接着剤をつけすぎても強度を保てません。長年の経験を生かした手さばきに2人は目をうばわれていました。

製作が続くソラトのボディー=7月上旬、東京都港区

ハクトを運営する会社「アイスペース」の秋元衆平さんはソラトの色や形について、「車体の銀色は光の反射率が高く、太陽の光をはね返します。側面には太陽電池を50枚つけ、太陽エネルギーで電気を補います」と説明します。

一方、軽さを重視したため、転んだ時に起き上がる機能はなくしました。転ばないよう、なるべく平地を選び、秒速10センチほどで進みます。他国のチームでは走らずに、ピョンピョンとびはねて進むところもあります。

黒田さんはこのレースの目的を質問しました。秋元さんは「技術開発を進めることです。月に継続的に行くことができれば、新しい産業が生まれます。月の映像を入手することは、宇宙産業を活発にする手がかりになるんです」。

優勝の可能性を聞いた中西さん。「月まで行ければ確実に勝てます。東北大学などと協力し、ローバーの研究を10年以上続けてきました。こんなに軽くて小さいローバーを作れるチームは他にはありません」と秋元さんは自信をみせます。

8月いっぱい最終試験を行い、インドへは9月以降送られる予定です。

(構成・寺村貴彰)

Q ミッションで一番難しいところはどこですか?

探査車の機能と、打ち上げにかかる費用のバランスを取ることです。また多くの技術者が関わるので、コミュニケーションをうまくとることも大切です。


取材をしてみて

自分がさわった車が月に行くかもと思うと、びっくりです。ぜひハクトに勝ってもらいたいです(黒田さん)

職人さんが楽しそうにしている姿が印象的でした。自分の仕事に責任を持つことが、よいチームワークをうむことがわかりました(中西さん)

山川記者の目ビジネス利用を視野に

月までの宇宙レース、ワクワクしますね。日本からの唯一の参加チーム「HAKUTO」は優勝に加えて、将来のビジネス利用を念頭に「輸送コストをいかに低くおさえるか」を考えています。アルミより軽く鉄より強い「炭素繊維」をボディーに採用しました。繊維を織りこみ、熱して炭化させて作る炭素繊維。東レなど日系メーカー3社で世界シェアの7割をにぎっています。

さらにHAKUTOが思いえがくのは、「宇宙での資源開発」です。月の資源として有望なのは水です。宇宙で水を発見することは、地球で石油を発見するのと同じくらい価値があるそうです。水を電気分解して酸素と水素が作れればロケットの燃料になるからです。

日本政府は今年5月に「宇宙産業ビジョン2030」を策定。宇宙産業全体の市場規模を現在の1・2兆円から2倍に増やす目標です。アメリカなどにおくれる日本。HAKUTOの活躍で宇宙企業がたくさん生まれるといいですね。

『週刊東洋経済』副編集長 山川清弘

HAKUTO
HP:https://team-hakuto.jp/
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子ども向け全国紙、朝日小学生新聞の創刊50周年記念企画。「最新の事象がコンパクトにわかりやすくまとまっている」と、経営者やビジネスマンの間でも密かに支持されている『朝小』と「週刊東洋経済プラス」が「未来を見に行こう:現場編」としてコラボレーション。未来の技術をテーマに、子ども記者と『週刊東洋経済』副編集長 山川清弘の異色タッグが企業に共同取材します。『朝小』紙面で月1回程度連載、『プラス』でも転載記事が公開されます。

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宇宙開発

衛星サービス軸に本格的宇宙利用時代へ

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「週刊東洋経済」の歴史から

米ソを追いかけた日本の宇宙開発

昭和40年(1965年1月1日号)

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